春秋会会員研修  「ダンス規制法について考える」   ~風営法によるクラブ取締強化の現場から~

はじめに

9月19日午後6時30分から2時間余り、大阪弁護士会館920号室にて、春秋会研修委員会主催による、ダンス規制法(風営法)についての研修が行われました。
当日は、部屋が一杯になるほど多くの先生方にご出席いただきました(計17名)。
講師には、春秋会会員の西川研一先生(60期)、同会員の松尾洋輔先生(59期)のほか、元クラブ経営者の金光正年氏においでいただきました。講師の先生方には、プロジェクターを用いて、ダンス・クラブの映像を観ながら解説いただくなど、時間があっという間に過ぎるような、臨場感溢れる講義をしていただきました。

過去の日弁連会長声明

冒頭、春秋会幹事長の丹羽雅雄先生からご挨拶をいただき、過去の風営法改正についてお話をしていただきました。
1948年に制定された風営法から「ダンス」という規制文言があり、1984年の大改正においても、その「ダンス」の文言が変わることはありませんでした。そして当時から、日弁連は、規制・取締りにおいて、濫用のないよう、必要最小限の運用にとどめるべきとの会長声明を出していたそうです。当時既に危ぶまれていた事態が、現実となっていることについて、丹羽先生からは、民衆文化への行き過ぎた介入であり大変危険なこと、弁護士会全体で取り組むべき先端的な問題であるとのご指摘をいただきました。

ダンス規制法とその問題点(概説)

次に、松尾先生より、風営法が「ダンス規制法」と呼ばれる理由についてご解説いただき、激化するクラブ摘発の現状、その背景のほか、法運用にあたる行政の混迷した様子などについて、ご講義いただきました。
風営法第2条の1号、3号、4号においては、客にダンスをさせることが規制対象とされ、この中にクラブが含まれるとのことでした。そして、3号においては盆踊り大会、4号においては、一般的なダンススクールさえ規制対象に含まれうるそうです。
そのほか、2010年から激化したクラブ摘発によって、大阪では特にミナミの街全体が文化として衰退の一途にあること、公民館で社交ダンスを楽しむ場合にまで、市から風営法規制周知のための通知が出されていることなどを取り上げていただき、クラブ規制に止まらない幅広い社会的な影響について、教えていただきました。

カルチャー発信基地としてのクラブ、世界のダンスカルチャーの中心へ

続いて、クラブ「NOON」を経営されていた金光氏より、摘発・捜査を受けた当時の状況について、お話しいただきました。
金光氏は、80年代のディスコブームの中、10代のころよりダンスを始められました。その後、ストリートカルチャーとしての海外ダンス文化との違いに目覚め、気取らず、誰もが自由に音やアートを楽しめる空間を創作しようと、クラブ経営に至ったそうです(大阪で初のクラブ誕生に寄与)。
その後、自らの描くストリートカルチャーを発信するべく、クラブで開催するイベントを企画・運営する会社を立ち上げ、その設立者となられました。その会社「adhip」は、今や、世界最大規模のダンスコンテストを日本で開催できるほどまでに成長し、まさしく世界的なストリートダンスカルチャーの中核を担う存在となりました。

私は、ストリートダンスを5年半ほど前から始めましたが、まさか弁護士になってadhip設立者の方とお会いできるとは夢にも思っておらず、舞い上がってしまいました。と同時に、そのような方が摘発を受け、厳しい状況にあることを、ひどく残念に思いました。
ダンス文化の拠点といえば、ミュージカルの本場ニューヨーク、はたまた、ハリウッドのロサンゼルスなどをイメージされるかもしれませんが、現在ストリートダンスの主要コンテストは、adhipを主体に世界各地で行われ、その上位入賞者が、日本で開催のコンテストに招致されるなど、日本が主体となってストリートダンス界を牽引しているような状況にあるそうです。その土台を築かれた立役者である金光氏は、続けて、次のようにお話されました。

クラブ摘発とカルチャーの喪失

「これまで、クラブの摘発は、対岸の火事のように思っていた。たしかに、街の治安を悪化させるクラブも存在するかもしれないが、自分のクラブは、ダンスの他にも、ファションショー・演劇・ライブ・絵画展覧会など、様々なアーティストが腕を磨いてエンターティメントを繰り広げる、ストリートカルチャーの純粋な発信基地であった。それにもかかわらず、家宅捜索を受け、帳簿を没収され、資金の流れを厳しく追及されるなどし、組織犯罪との繋がりなどを疑われて大きなショックを受けている。ダンスをさせるクラブであれば、どこもかしこも規制対象となるのは、まったく理解ができない。法の解釈・運用をきちんとして欲しい。法律改正の必要がある。この状況が続けば、文化そのものが育たなくなる。今後、日本は、他のアジアに、どんどん抜かれてしまいかねない(K-POPの流行などが良い例)。」
街中のクラブシーンから、世界に名の通るダンスコンテストを築き上げられた金光氏のお言葉には、大きな説得力がありました。

法改正に向けて

その後、西川先生から、ダンス規正法について、詳細な解説をいただいたほか、改正に向けての活動をご紹介いただきました。
風営法上のクラブなどに対する規制については、「許可を受ければいいのではないか」と思われがちですが、クラブが風営法における許可を得ることは非常に困難で、たとえ許可を得たとしても、テーブルや椅子の位置などを少し変えただけで、再び規制対象とされてしまうおそれのあることなどを、教えていただきました。また、風営法制定当初の立法事実と現在の立法事実(規制目的)に大きな隔たりがあるにも関わらず、同じ「ダンス」ひとくくりで規制の網をかけることに根本的な問題があることについて、ご講義いただきました。
ダンス規制撤廃を求める運動として、2012年5月29日より署名活動が開始され、現在7万4000筆を超えていること、国会議員による超党派議連が発足準備にあること、Let’s DANCE法律家の会が発足準備にあること、などについてお話がありました。Let’s DANCE法律家の会は、随時会員募集中で、署名用紙はインターネットのHPから簡単にダウンロードできるほか、ネット上でも直接に署名ができるそうです。

さいごに

プロジェクターを用いたリアリティ溢れる講義は、受講者の五感を刺激して新鮮なものとなり、まるで部屋全体が一体となるような共感を生むなど、充実度の高い研修となりました。また、参加された先生方の中には、音楽などのエンターティメントに関わってこられた経験をお持ちの先生が多くおられるなど、関心の高さが窺われました。
金光氏からは、時折、会場を笑いに誘う映像素材もご紹介いただき、このような苦境にありながらも人を楽しませることを忘れない、エンターティナーとしての真髄に触れたような気持ちが致しました。
その後、賑やかな懇親会が開かれました。西川先生や松尾先生から、ダンス規正法改正に向けての実情などをざっくばらんにお話いただき、憲法問題から芸能まで、幅広い話題に富んだ、楽しいひと時となりました。

昨今、日本のダンススクールには、アジア各地から若者がダンス留学に訪れ、入会申込書などには英語などの外国語版が用意されているようです。その留学生のお目当てである、アジアでも有名な日本のダンサー達が駆け出しの頃に技術を切磋琢磨させたのは、主にクラブでした。そもそも、クラブが街中に誕生する前までは、ストリートダンスを教えるダンススクールさえ、日本にはほとんど存在しなかったのです。クラブイベントで名を馳せ、ダンスコンテストで上位に入賞したダンサーが、各地でダンスを教えてきたそうです。現在、中学校で必修科目となっているダンスを教える中学校教師の、更にダンス指導にあたるのは、そのように、クラブで経験を多く積んできたダンサー達のようです。
私は、恥ずかしながら、この問題についてあまり知らなかったのですが、本研修に参加させていただき、このようなダンス規制により、世界に向けて発信してきたカルチャーそのものが衰退してしまうことのないよう、多くの方々に知っていただく必要のある問題であることを、勉強させていただきました。

最後になりましたが、丁寧なレジメをご準備いただき、わかりやすく的確な解説をしていただいた松尾洋輔先生、実体験を惜しまず熱心にお話しいただいた金光正年氏、そして、パーポイントで詳細に解説をいただき、法改正に向けて弁護士会・世論をリードしていただいている西川研一先生に、心よりお礼申し上げます。