
講師: 冠木克彦弁護士
日時: 平成23年9月30日午後6時~午後8時
場所: 大阪弁護士会1203号会議室
春秋会政策委員会の研修企画として、平成23年9月30日午後6時から約2時間、原子力発電に関する差止訴訟についての研修が行われました。
講師を引き受けて頂いた木克彦弁護士(30期)は、約20年にわたり、関西電力高浜発電所2号炉の運転差止訴訟、関西電力プルサーマル装荷差止仮処分、九州電力玄海原子力発電所3号機MOX燃料使用差止訴訟といった、原子力発電に関する差止訴訟に取り組んでこられた弁護士です。
本研修では、冠木弁護士に、これまで取り組んでこられた訴訟で苦労された点と、福島第一原発の事故による今後の原子力発電に関する差止訴訟への影響などについてご講演頂きました。
まず、東日本大震災により発生した福島第一原発の事故について、水素爆発が起きた建屋やその衝撃波で窓ガラスが粉々になった事務棟、原発作業員が事故発生時に書き残したホワイトボードなど、事故当時の状況を生々しく伝える写真を交えながら、その様子を伝えていただきました。現状、福島第一原発の地下には大量の高濃度放射性物質が漏出しているものの、危険なために人が立ち寄れず、正確な漏出の理由を調査できない状況であるとのことでした。
次に、冠木弁護士がこれまで取り組んでこられた差止訴訟について、各訴訟で中心に据えた争点とそれに対する裁判所の判断についてご説明頂きました。

平成4年10月29日、最高裁判所は、伊方原発設置許可取消を求める訴訟において、原子炉施設の安全性に関する判断の適否について、非常に幅広く行政側の裁量権を認める旨の判決を出しました。この判例によれば、原子力発電に関する差し止めが認められる可能性は極めて低くなってしまいます。
そこで、冠木弁護士らは、稼働差し止めを求めようとする原子炉の特定の箇所に存在する問題点を争点として「具体的危険性」の立証を目指す、という方針を立てたそうです。
ただ、原子炉の特定の箇所に存在する問題点を指摘するためには、まず当該原子炉の構造を正確に理解する必要があります。本研修では、冠木弁護士が取り扱った高浜発電所2号炉、関電プルサーマル、玄海原子力発電3号機について、それぞれ、各訴訟で争点として取り上げた構造上の問題点を、図を用いて分かりやすくご説明して頂きました。長年原子力発電について研究されてきた冠木弁護士のご説明は、専門的な部分に踏み込みつつも、初心者である私にもわかりやすく、裁判所に対して「具体的危険性」を理解してもらえるよう工夫されてきたことが伝わってきました。
さらに、冠木弁護士には、福島第一原発事故により明らかとなった、原発の安全基準についてもご説明頂きました。東電や政府の原子力安全委員会は、東日本大震災が発生する以前では、長時間の全交流電源の喪失は想定しておらず、対策もしていませんでした。その結果、福島第一原発の事故につながりました。これまで原子力安全委員会は、「安全審査指針」を定め、原子力発電の安全性を図ってきました。しかし、福島第一原発の事故は、「安全審査指針」が不十分であることを国民に知らしめることになったのです。
最後に、これからの原子力発電差止訴訟について、原子炉の特定の箇所だけではなく、「原発そのものが危険物である」ということを主張立証する必要があるのではないか、との問題意識を語って頂きました。
福島第一原発事故は、原子力発電は当該発電所が設置されている地域だけの問題ではないということを、私たちが改めて考える契機となりました。
約20年にわたり原子力発電に関する差止訴訟に携わってこられた第一人者である冠木弁護士から、福島第一原発の事故以前の訴訟活動と将来の差止訴訟の展望をお聞きすることができ、将来、原子力発電に関する訴訟について携わる可能性がある弁護士にとって必要な基礎知識を修得する機会を与えてくれた研修になりました。
最後になりましたが、詳細なレジュメやパワーポイントをご準備して頂き、丁寧な解説をして頂いた冠木先生に心からお礼申し上げます。
また、このような貴重な機会を設けて頂いた今年度政策委員長の山西美明先生をはじめ、お世話になりました春秋会の先生方に改めて感謝申し上げます。


