
平成26年4月25日,大阪地方裁判所第5刑事部において,風営法違反(無許可営業)被告事件について,無罪判決の言渡しがありました。
平成25年4月4日に「大阪府公安委員会の許可を得ず,『ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ,かつ飲食させる営業』を行った」として摘発を受けたクラブNOONは,音楽好きが集まり,文化の発信拠点として全国的に知られる老舗でした。
NOONの営業内容は全くもって健全なものです。風営法が目的とする「善良の風俗と清浄な風俗環境の保持」に何ら反するものではなく,公安委員会の許可に服さなければならない理由はありません。NOONの経営者である金光正年さんと弁護団がそう信じて戦い続けてきた結果がついに実った瞬間でした。
風営法のダンス営業規制の是非を巡っては現在も活発な議論が交わされており,この判決が立法論に与えたインパクトも小さくありません。風営法の改正についても激論が交わされています。
しかし,私は,金光さんと弁護団が正しいと考えたことを裁判所に適切に伝え,理解させる刑事弁護技術こそ,弁護士に共有すべきノウハウであると考えて今回の研修を企画しました。私も弁護団の末席を汚していましたので,手前味噌でもありますが,そこはそれ,本当に末席ですのでご容赦ください。

本研修では,講師としてNOON弁護団団長西川研一弁護士と主任弁護人水谷恭史弁護士を招き,公判前整理手続及び公判手続の流れに沿って,ポイントを解説していただきました。
公判前整理手続では,風営法2条1項3号の「ダンス」の定義を巡る検察官との応酬がなされたことが紹介されました。一般的には公訴事実や関連事実の認否の確認だけに終わりがちな公判前整理手続ですが,弁護団が戦略的に検察官の立証対象を設定しようとした点は非常に参考になったのではないでしょうか。また,証拠関係では,風営法の立法経過を明らかにするための国会議事録やダンス業界の専門誌といった大量の書証に加え,クラブの営業実態を裁判所に理解させる目的で,イベント風景の録画DVDを,摘発当日の営業内容を明らかにする目的で,摘発当時店内に流れていたUKロックのリミックス音源を証拠請求するなどの活動が紹介されました。積極的な弁護側立証の重要性がご理解いただけたのではないかと思います。
公判手続の様子としては,まず,川崎拓也弁護士による冒頭陳述が再録を一部再生して紹介されました(youtubeにアップロードされています。「NOON冒頭陳述」で検索ヒットしますので,興味のある方は是非。弁論の再録もあります。)。私は,裁判所を本気にさせたのはこの冒陳だったのではないかと思っています。聴講者の皆様も裁判「官」裁判においても,プレゼンテーションの重要性は高いと実感されたのではないでしょうか。

この裁判では,警察官,学者,来店客,従業員ら合計18名もの証人尋問が実施されました。証人として採用された3名の学者の先生方については,意見書が弁号証として採用された上での尋問でしたので,どのような尋問を展開すべきかという点については,関心が高かったように思います。
また,検察側証人である警察官の尋問については,水谷弁護士が巧みに証言を引き出していき,尋問を終えてみると,複数の警察官の間で何が摘発すべき営業形態であるのかが全く統一されていないこと=風営法の規定に綻びがあることが浮き彫りになった様子が紹介されるとともに,そのような尋問を可能にした事前の準備の様子についても紹介されました。
研修の最後には,水谷弁護士による弁論の内容を紹介するとともに,弁護団の主張がどのように無罪判決に結びついたのかという点の分析が披露されました。
今回の無罪判決は,構成要件該当性を否定するものであり,残念ながら憲法違反の主張は認められてはいませんが,裁判所は弁護団の主張を一蹴することなく,ひとつひとつの主張に丁寧に応答しています。無許可営業罪という形式犯を前にしても粘り強く考え抜いた弁護団の姿勢の一つの現れであったと思います。
現在,本件は検察官控訴による控訴審に係属しており,弁護団の戦いは終わっていません。
あらためて,よい報告ができることを願うとともに,今回の研修が皆様の今後の刑事弁護活動の参考になることを心より願っております。


