最寄駅等でAED(自動体外式除細動器。Automated External Defibrillator)の機械を見かけることはありませんか?消火栓みたいなアレです。医療ドラマ等で、呼吸の止まった患者さんの胸に電極パッドをあてて通電すると、患者さんの体がビクッとなり、モニターがピピッ、ピピッと山を描き始めるアレです。
心室細動という不整脈が起きると、心臓が細かく痙攣するので、血液が全身に送れなくなり、同時に意識がなくなります。心室細動発生から1分で呼吸が停止し、10分以内に心臓が完全に停止します。心室細動が続いている間にAEDで通電し、心臓の細かい痙攣を一旦停止させると、数秒後、心臓は自分の力で規則正しく動き出すようになります。心臓の拍動が得られると、脳への血流も再開します。心臓に規則正しい動きを回復させるためには、そのエネルギーが心臓に残っている間に通電する必要があります。また、心拍が再開しても、脳への血流停止時間の長さによっては脳への後遺症が残る場合があります。心室細動発生時には、電気ショックによる除細動が唯一の救命方法であり、迅速な除細動実施が要請されます。
① 心臓マッサージをしながら AED手配
② 心臓マッサージ ラスベガスのカジノでは、148例の心臓突然疾患のうち105名が心室細動で、うち90名が倒れるところを目撃されてAEDが使用され、うち53名(59%)が生存退院しました。倒れてから3分以内にAEDが使用された35名中26名が生存退院し(74%)、3分以上経過後、AEDが使用された55名中27名(49%)が生存退院しています。シカゴ・オヘア空港およびその周辺の空港でも、2年間に発生した22例の心臓突然疾患のうち18例が心室細動で、うち11例(61%)が通行人によるAEDの使用により、救命されました
わが国では年間5~6万人が、急な病気や事故により、病院に辿り着かずに突然死してしまいます。高槻市で1年間に発生する突然死は平均190人、このうち、心臓が原因で突然死するのは約100人と推定されています。2011年8月4日にサッカー元日本代表の松田直樹選手(34歳)が練習でランニング中、急性心筋梗塞を起こして倒れ、急逝しました。もともと心臓病がなくとも、トップアスリートでも、突然発症の心筋梗塞は起こります。
日本では救急車が現場に到着するまで平均7分かかります。そこで、救急車到着までの「時間の壁」を超えるため、人が倒れるところを目撃した通りがかりの市民が使用できるよう、小学校高学年の児童でも使用できるように完全に自動化されたAEDの公共施設等への設置が進められてきました。平成22年12月現在で約25万台が全国の公共施設等へ設置され、大阪弁護士会館でも1階と6階に設置されています。
折角、あちこちに設置されるようになったAED。でも、使い方がわからない・・・。人が倒れるのを目撃し、AEDの使い方がわからず、あたふたしている間に、助けられたはずの命が・・・となってしまったら。そんな危機感から、私は、AED講習実施を春秋会研修委員に懇願し、今回、実施いただきました。
当日、インストラクターさんは3人。受講者は20名強。最初に短時間の講義を受けたら、7人程度のグループに分かれ、マネキン相手にすぐ実習です。まず、全員が交代で心臓マッサージをしました。手の平を組んで、胸の上に置き、ポンプのように押します。肋骨が折れても心臓が動く方が大事だから、相当、強く押すよう言われます。自分なりに強く押したつもりでも、もっと強く!!と言われます。一度、やってみることをお勧めします。(なお、かつては心臓マッサージと人工呼吸を交代でやるよう指導されましたが、今は人工呼吸はせずに、ずっと心臓マッサージを続けてよいとなっているそうです。人工呼吸は心理的抵抗がありうるので、これで少し、ハードルが下がります。)
③ 電極パッドを貼る
④ 音声に従ってボタンを押す 心臓マッサージの次は、いよいよAEDの実習です。インストラクターさんに一通り手順を教わってから、自分達で使ってみます。素人でも使えるよう、音声で細かく指示が出ます。機械の言う通りに、胸を開けて、電極パッドを胸と脇に貼り付けると機械が自動的に心電図を解析して、電気ショックを与えるべきかを判定してくれます。機械が電気ショックが必要と判断したなら、機械の言うとおりに、スイッチを押し、電気ショックを与えます。機械が電気ショックは必要ないと判断した場合には、たとえボタンを押しても電気は流れません。日本語がわかれば、誰でも使えると聞いていましたが本当でした。ただ、そうは言っても一度、練習してみないと、倒れた人を前にAEDを使うのは勇気がいります。使おうと思っても慌てているうちに貴重な3分が経過してしまう恐れもあります。
AEDの実地練習も終えたら、DVDでおさらいです。倒れた人を発見してから、心臓マッサージ、AEDを使用し、蘇生するまで、DVDを見ながら、手順を復習します。「これなら私でも使えそう。」という実感を持つと同時に、倒れた方が無事、蘇生する映像に、気持ちが高揚し、救命医療に携わるお医者さん達のやりがいを垣間見たように思いました。
今回、法律事務所の事務局の皆さんにも参加いただきました。講習終了後、エレベーターで、ご一緒した事務局さんから、・ 折角、こういう講習を受けても、事務所のボスに「素人が下手に手を出すんじゃない!」と怒られてしまいそう。そんな風に考える人は多いのでは。 とご指摘いただきました。
緊急事務管理は悪意重過失でなければ損害賠償責任は発生しません(民法698条)。心臓マッサージをせずに、AEDを使用するだけでも、特に発症直後には、すぐれた効果が認められています。講習受講の有無に関わらず、人が倒れるところを発見したら、119番をすると共に、是非、AEDの使用を試みてください。また、機会があれば、AED講習を是非、一度、受講いただくことを強くお勧めします。
参考資料 :森田大「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)を用いた除細動と心肺蘇生」大阪府三島救急医療センターウェブページTerence D. Valenzuela, M.D. M.P.H., and others “Outcomes of Rapid Defibrillation by Security Officers after Cardiac Arrest in Casino”, The New England Journal of Medicine, 2000; 343: 1206-1209財団法人日本心臓財団ウェブページ厚生労働省「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会報告書」平成16年7月1日平成22年度厚生労働省研究「循環器疾患等の救命率向上に資する効果的な救急蘇生法の普及啓発に関する研究」